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2020年9月

2020年9月25日 (金)

学長室から~第1号~

 本来は4月からと考えて準備してきた「学長室から」ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大のため、発信の機会を失い、後期の授業開始を迎えてしまいました。この間に、学生の皆さんと保護者に向けて、本学の新型コロナウイルス感染症に対する方針を説明する「学長メッセージ」は実に10号まで進みました。後期は漸く対面式で、本学にとって極めて重要な実習を始めることができるようになりました。準備にあたってきてくださった教員・職員の皆様に、心から感謝と御礼を申し上げます。

 本学は10月下旬に7年振りの外部認証評価を受ける予定です。これが無事終了しましたら、その後は来年4月にスタートする新たな長期将来計画(10年間)、中期計画(3~4年間)、および単年度のアクションプランの立案に本格的に取り組むことになります。学長として2年の任期の間に目指す内容は、6月に「学長マニフェスト」としてお示ししていますので、これを補完しながら、今回から日々考えていることを皆様にお伝えして行きたいと考えております。

 第1号は自己紹介を兼ねて、新潟大学脳研究所長の時に、日本医事新報の「炉辺閑話」という企画に投稿を依頼された機会に、自分の先祖を振り返って用意した原稿に、今回加筆させていただいたものです。お目通しをいただけましたら幸いに存じます。

 

 

「一期一会」

 私の先祖は、彦根藩井伊家の江戸屋敷で漢方医の末席にいたと伝え聞いています。真偽のほどはわかりませんが、兄の元には殿様から拝領したという谷文晁作の虎の屏風絵があります。とても汚れており、かつまた贋作が非常に多い方なので、皆偽物と思っていて、鑑定団に出したことはありません。

 遠い先祖のご主人様ですので、親近感を感じるのですが、幕末の大老井伊直弼は茶人としても名高い人でした。直弼が遺した「茶湯一会集」には、「そもそも茶湯の交会は一期一会といひて、たとえば、幾たびおなじ主客交会するとも、今日の会にふたたびかへらざる事を思へば、実に我一世一度の会なり、さるにより、主人は万事に心を配り、〔中略〕実意を以て交わるべきなり、是を一期一会といふ」とあり、これが「一期一会」という言葉が使われた始めとされています。

 「一期一会」は、広辞苑に「生涯にただ一度まみえること、一生に一度限りであること」とある通り、「一期」は仏教用語で、人が生まれてから死ぬまでの一生のことですから、一生に一度しかない集まり、一度限りの出会いという意味です。千利休の高弟山上宗二による「山上宗二記」にも、「一期に一度の会」という表現がありますから、茶道の心得として古くから伝えられてきたものです。

 しかし、直弼のいう「一期一会」はニュアンスが違っています。これからも何度も茶会で同席する人だとしても、今日の会は二度と同じ会に戻ることは出来ないという意味で、一世に一度の出会いになるので、主人は万事に心配りをしなければならないというのです。茶道を離れて、毎日顔を合わせている友人・同僚や親子・夫婦であっても、出会いのひと時ひと時が「一期一会」なのだから、そのひと時を大切に、ということになります。

 直弼の「一期一会」は茶道の心得としてだけではなく、あらゆる対人サービスの現場に 相応しい心構えでもあります。私は脳神経内科を専門とする臨床医ですので、患者さんやその家族には外来でも病棟でも、何度も出会う機会がありましたが、その出会いは二度と同じ場面に戻ることは出来ないので、毎回が「一期一会」なのだと考えることにしてきました。だからこそ、その出会いの時に、目前の患者さんのために最善を尽くさなければと思えるのです。

 私も古稀を迎える年齢となり、これまで以上に、ひと時ひと時を愛おしく感じるようになりました。新潟医療福祉大学の皆様からも、たくさんの新たな「一期一会」をいただいております。皆様との今回のご縁に感謝しつつ、本学の教学マネジメントに全力を尽くし、建学の精神に謳われている「優れたQOLサポーター」の育成と、「教職員の自己実現を支援する大学を目指す」・「面倒見の良い大学を目指す」・「持続的に発展する大学を目指す」というマニフェストの実現に取り組んで参ります。

 

2020年9月25日