こんな料理のはなし(2)
皆さんこんにちは
健康栄養学科の八坂です。今日は、前回のお話の続きをお送りします。
水炊きを食べて酷い嘔吐を経験して、後日、1~2ヵ月経ったころでしょうか、母はまた夕食に水炊きを出してくれました。
水炊きが大好きだった私はその日のメニューが水炊きであることが分かると嬉しくなり、喜び勇んで食べようとしました。しかし、ポン酢につけた具材を口元に持っていった瞬間、嘔吐反射が起こってしまったのです
目で水炊きを見て喜んでいるのに、食べたいのに、ポン酢の匂いに反応して嘔吐反射が起こってしまうのです。どんなに食べたくても、食べようとしても口元に持っていくと「オエッ」ってなってしまい、どうしても口に入れることができません。文字通り身体が受け付けない状態になってしまったのです。私はとても悲しくなりました。
どなたか、このような経験をしたことがあるでしょうか?
今回の悲しい話はここで終わりではありません。本当に悲しかったのはここからです。上に皆さんに問いかけましたが、私の家族の中にはこのような経験を理解できる人がいませんでした。まず、「オエッ、オエッ」となっている私を見て家族は笑いました。いくら説明しても信じてもらえません。
私は試しにゴマダレを使って食べてみました。そうすると、驚いたことにゴマダレでは普通に食べられたのです!しかし、喜びもつかの間、これがまた更なる悲劇を生むことになろうとは・・・。
ゴマダレだったら食べられると言うと、それを私の家族は、私がゴマダレを好きだから嘘をついていると言い出したのです。こんなに悲しいことはありませんでした。いくら説明しても嘘つき呼ばわりされるばかりです。
父は「それならそれでいい」というようなことを言ってくれましたが、母や兄姉は認めようとはしませんでした。私は嘘つき、ずるいヤツ、卑怯者とレッテルを貼られ、私は悔しくて悔しくて、本当に悲しかったです。
また数か月後水炊きになりました。その時も私はポン酢を試してみましたが、やっぱり嘔吐反射が起きて前回同様どうしてもポン酢では食べることができず、ゴマダレで食べました。そして前回同様に嘘つき呼ばわりされたのでした。
本当のことを言っているのに家族に信じてもらえない、嘘つき呼ばわりされる苦しさ・悲しさに家庭内に居場所がないと感じるほどでした。この嘔吐反射は頑固で、そういったことが続き、そのたびに嘘つき呼ばわりされ、「もういい加減にしたら・・・」みたいな空気が漂っていました。
そんなことが数年続いたでしょうか? 5年くらいたった頃、恐る恐るポン酢を使ってみると、なんと食べられるようになっていたのです 本当に良かった。私は、もう水炊きを食べる時に悲しい思いをしなくて済むのだと思いましたが、家族にはすでにどうでもいいようなことになっていたようです。
時は流れて私は大学院に進学し視床下部の研究をしている生理学教室に所属しました。視床下部は食行動にも重要な部位であり、食行動の研究をしている先生がいらっしゃいました。
その先生に教えていただいたのですが、私が経験したような、(簡単に言うと)食あたりによって、その食品が食べられなくなるという現象は良く知られているのだそうです。
私はその時初めてそのことを知りました。家族に信じてもらえなかった悲しい気持ちが思い出され、それが怒りに変わっていくのを感じました。誰かが知っていてくれたら、私は嘘つき呼ばわりされずに済んだのに・・・。
皆さん、もしこういう人を見かけたら決して、絶対に嘘つき呼ばわりしないでくださいね。そして、このようなことがあることを知らない人がいたら教えてあげてください。嘘つきだと決めつけられることは本当に自尊心を傷つけられます。悲しいです。居場所がなくなります。すなわち、存在が否定されるようにすら感じます。どうか、どうか、お願いします。
私は生理学を専門にしています。嘔吐反射自体の神経回路は解明されていますが、今回のような嗅覚の記憶がどのように嘔吐反射を起こしているのかについての詳細な神経回路は、未だ不明のことも多いようです。今後はそういったことについても勉強、可能であれば研究していければと思っています。それが私のリベンジになるのかもしれません。